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着床不全とは

 体外受精において、40歳未満の方が良好な胚を4回以上移植した場合、80%以上の方が妊娠されるといわれています。よって、良好な胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠しない場合を『反復着床不全』 (Repeated Implantation Failure)と定義されています。当院ではGardner分類3BB以上の良好胚を3回以上移植しても妊娠が成立しない場合には着床不全の検査を検討することにしています。

着床不全の原因

着床不全の原因は大きく3つに分類されます。

  •  受精卵(胚)側の問題
  •  子宮内の環境の問題
  •  受精卵を受け入れる母体側の免疫寛容の問題

着床不全の検査

 着床不全の検査で、まず胚の質を調べる方法としては、胚の細胞の一部をとって染色体を調べる着床前診断(PGT-A)という方法がありますが、現時点では重篤な遺伝性疾患を持った夫婦や、すでに染色体異常を保因することが診断されている夫婦の場合、また複数回の胎児染色体異常による流産を経験している夫婦を除き、わが国ではまだ正式には認められていません。さらに、この診断法を用いて胚の染色体が正常であった場合でも、その妊娠率は70%程度であり、残りの30%は染色体が正常でも妊娠出産には至りません。

 子宮環境の問題にあたる子宮奇形(中隔子宮や双角子宮など)や子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、卵管水腫は、超音波検査や子宮鏡、MRIなどを用いることでその状況を把握することができます。

 着床するためには、免疫の寛容が非常に深く関係します。人間の体における免疫とは、自己と非自己(自分以外)を認識し非自己を排除しようとする働きのことを言います。自分以外の人の臓器を自分の体内に移植する臓器移植では、免疫による拒絶反応が起こります。同様に妊娠のことを考えると、胎児は自己(母親)の情報を半分持っているものの、半分は父親由来の情報を持っており、トータルで考えると胎児は非自己(自分以外)なはずですが、妊娠の過程においては拒絶反応が起こりません。このことは、妊娠の際には“免疫寛容”が起こり、本来起こるはずの免疫反応である拒絶反応が起こらなくなっていると考えられています。この状態を免疫寛容といいます。妊娠時には免疫寛容を誘導する制御性T細胞(白血球)の働きによって拒絶反応が起こらなくなっていると考えられていますが、まだまだ解明されていないことが多く存在しています。ただ、この免疫寛容がうまくいかない場合に胎児を非自己と認識してしまい、拒絶反応としての流産を引き起こすと考えられています。これらを検査する方法として、リンパクロスマッチ検査やTh1/Th2比の検査を行います。

 そのほかにも、近年の研究でいくつかの有望な検査方法が報告されています。着床の時期のずれについて、子宮内膜を遺伝学的に調べる【ERA検査(Endometrial Receptivity Analysis)】【ERpeak検査(子宮内膜胚受容期検査)】、子宮内膜の細菌の種類と割合を調べる【EMMA検査(Endometrial Microbiome Metagenomic Analysis)】、子宮内膜炎に関与することが言われている10種類の病原菌について、その有無と割合を調べる【ALICE検査(Analysis of Infectious Chronic Endometritis)】など、さまざまな方法があります。

着床不全の治療

 着床不全の方は様々な特殊検査を行い、検査異常が見られた項目に関して対策をとっていくことになります。異常が単一の方もいれば複数の方もいます。

 ・ 着床の窓(Implantation Window)のずれ

 ERA検査やERpeak検査において着床の窓(Implantation Window)がずれていると判断された場合には、そのずれに合わせて胚移植日を変更していきます。本来は培養5日目の胚は、高温期5日目に移植しますが、検査結果によって4日目や6日目に移植することになります。

 ・ 慢性子宮内膜炎

 反復着床不全の3割には慢性子宮内膜炎を認めるとの報告もあります。慢性子宮内膜炎の検査はいくつかありますが、診断率が高くないため状況に合わせて複数の検査を行うこととなります。子宮鏡検査、【Nugent Score】、EMMA検査(Endometrial Microbiome Metagenomic Analysis)、ALICE検査(Analysis of Infectious Chronic Endometritis)、子宮内フローラ検査など状況に合わせて検査を行います。
 検査で慢性子宮内膜炎を疑った場合には広域抗菌薬の投与を行うことになります。初めにドキシサイクリン(ビブラマイシン 100mg)1日2回×14日間を使用し、改善しない場合にはシプロフロキサシン(シプロキサン 200mg)+メトロニダゾール(フラジール 250mg)1日2回×14日間を投与して治療することにしています。そのほかの検査で原因となる菌種が判明した場合には、各菌種に特異的に効果のある抗生剤を投与するとになります。また、膣細菌叢の正常化のために乳酸菌製剤の投与も行っています。

 ・ Th1/Th2比

 着床不全の方と不育症の方が行う検査になります。

 心臓移植や、肝臓移植の際には免疫抑制剤を使うことで、自己が非自己を排除しようとする働きである免疫(拒絶反応)を抑え、移植した臓器が自分の体の中で生き続けます。本来、胎児はお母さんにとって自己と非自己でいうなら”非自己(自分以外)“にあたります。妊娠してお母さんのおなかの中で胎児が10か月育っていくためには、免疫寛容という働きで胎児を攻撃しないようにしないといけません。妊娠時には免疫寛容を誘導する制御性T細胞(白血球)の働きによって胚(胎児)に対する拒絶反応が起こらなくなっていると考えられています。

  正常妊娠では胎児と胎盤を異物とみなし攻撃するTh1細胞が減少しTh2細胞が優位になり妊娠を維持すると考えられています。しかし、反復着床不全患者と妊孕能正常の女性のTh1/Th2細胞比を比較すると反復着床不全患者が有意に高いという報告があります。つまり、胎児を異物とみなして攻撃してしまうため不育症や着床不全に至ってしまうのです。2017年に日本のクリニックからTh1/Th2比が高い反復着床不全患者に免疫抑制剤であるタクロリムス(プログラフ)を併用し胚移植をした場合に高い妊娠率が得られたとの報告がなされました(Am J Reprod Immunol. 2017 Sep)。タクロリムスはTh1細胞を優位に低下させTh1/Th2バランスを制御し受精卵に対する拒絶反応を避け免疫寛容を誘導することで、妊娠率の改善に至ると予想されています。当クリニックにおいてもTh1/Th2比が高い着床不全の方にはタクロリムスを使用した治療を行います。

 ・ ビタミンD

 ビタミンD欠乏を合併する不妊症患者と反復着床不全の関係についての報告があります。ビタミンDは免疫寛容に関連するTh2細胞やヘルパーT細胞を調節する制御性T細胞を増やし、一方、免疫拒絶に関連するTh1細胞を抑制する作用があり、妊娠に有利な免疫状態を誘導する働きがある。ビタミンDが30ng/mL未満の患者様には、より良い免疫状態を誘導するためにサプリメントを服用していただくことがあります。

 ・ その他の原因不明の着床不全に対するサポート

 着床不全には様々な原因があるため、個々の症例に応じて、適切な検査および治療を選択することが望まれます。

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