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目次

   ◇ 高度生殖医療(ART)
    ・ARTを受けるために必要な準備     
    ・日本におけるARTの成績   
  ◇ 体外受精-胚移植とは     
    ・ARTの適応   
  ◇ 体外受精-胚移植の流れ     
    ・事前準備~排卵誘発法の決定     
    ・調節卵巣刺激(排卵誘発)     
    ・採卵     
    ・検卵、精子の調整、媒精     
    ・媒精:体外受精( C-IVF )     
    ・媒精:顕微授精( ICSI )     
    ・胚培養~胚の評価     
    ・新鮮胚移植     
    ・胚凍結     
    ・培養何日目の胚を移植する?     
    ・『初期胚移植』について     
    ・『胚盤胞移植』について     
    ・『二段階胚移植』について  
    ・胚盤胞移植のメリット     
    ・胚盤胞移植のデメリット     
    ・凍結融解胚移植    
    ・ホルモン補充     
    ・妊娠判定   
  ◇ 体外受精にともなう合併症等     
    ・OHSS(卵巣過剰刺激症候群)     
    ・多胎妊娠     
    ・異所性妊娠     
    ・採卵のリスク     
    ・先天異常、流産     
    ・治療のキャンセル     
    ・体外受精に代わる治療法     
    ・不測の事態による影響     
    ・カウンセリングについて     
    ・お願い

高度生殖医療(ART)

  ARTとはAssisted Reproductive Technologyの略称で、日本では生殖補助医療と訳されます。一般不妊治療と異なり、体外で精子や卵子、受精卵(胚)の操作を行う高度な技術を要する不妊治療のことを指します。ARTには、体外受精・胚移植、顕微授精(ICSI)、胚凍結・融解胚移植があります。現在、日本だけでも年間50,00人以上の赤ちゃんがARTによって産まれています。
 2018年の日本産科婦人科学会の資料ではARTによって56,979の赤ちゃんが生まれたと報告されています。これは2018年に日本で生まれた赤ちゃんの6.2%にもなり、16人に1人はARTで妊娠出産していることになります。これは現在の日本においてARTが一部の人の特殊な治療ではなく、社会的にも認められていると言えると考えています。

当院でARTを受けるために必要な準備

  • ART説明会の受講が必要です。ただし、すでに他院で治療されており、体外受精-胚移植について十分理解されている方であれば必要ありません。
  • 当院の体外受精-胚移植法の同意書が必要です。
  • 法的な婚姻関係を証明する書類が必要です。
  • 御夫婦の1年以内の感染症検査結果、ホルモン検査が体外受精開始前に必要です。

日本におけるARTの成績

  日本では日本産科婦人科学会がART治療の報告を義務付けており、日本における成績を毎年公開しています。妊娠し出産後に日本中の施設からの報告をまとめるため、2020年10月現在で最も新しいデータは2018年のものになります。2018年の日本産科婦人科学会のデータでは56979人の赤ちゃんがARTにより出生しています。一方で2018年に日本で生まれた赤ちゃんは合わせて91万8400人になります。このことからARTによって出生した赤ちゃんが、日本の総出生数の約6.2%であり、日本全国で生まれた赤ちゃんの16人に1人がARTで生まれた赤ちゃんという事になります。

  全周期 新鮮胚移植周期 凍結胚移植周期
総治療周期 454,893 251,411 203,482
移植周期 250,377 50,463 199,914
妊娠周期 79,998 10,641 69,357
生産周期 55,478 7,397 48,081
移植あたりの妊娠率 31.95% 21.09% 34.69%
移植あたりの生産率 22.15% 14.66% 24.05%
流産率 25.47% 25.47% 25.48%

※ この表の数字をしっかりと読み解くことが重要となります。

  • 移植には新鮮胚移植周期と凍結胚移植周期の2種類あります。
  • 治療周期で見ると新鮮胚移植が凍結胚移植周期より多い。
  • しかし、新鮮胚移植周期では治療開始(採卵:251,411周期)しても、実際に移植に辿り着けた(50,463周期)のは約1/5に過ぎない。
  • 実際に移植をして、妊娠に至った妊娠率は新鮮胚移植が21.09%に対して、凍結胚移植では34.69%と、凍結胚移植の方が約1.5倍妊娠率が高い。
  • 流産室は新鮮胚移植と凍結胚移植でほとんど差はない。

  ⇒ 以上のことより、新鮮胚移植より凍結胚移植の方が妊娠率、生産率(実際に出産まで至った)ともに成績が良いという結果であることがわかります。

体外受精-胚移植とは

  体外受精とは、卵管の中での過程(受精-胚発育)を体外で行う操作のことです。排卵誘発剤を投与して、女性から複数個の卵子を採取して体外で精子と出合わせます。卵子は受精した後、細胞分裂を始めて胚(受精卵)になりますが、この胚を体外で通常2~6日間培養した後に子宮に戻し、着床させます。着床から出産にいたる過程は、通常の妊娠と同じです。

ARTの適応

  一般不妊治療では妊娠しなかった方(原因不明)や、卵管の状態が良くない(卵管閉塞、卵管水腫や高度卵管周囲癒着など)、精子の数が少ない、人工授精で妊娠に至らなかったなどの理由で、不妊症の約半数のご夫婦がARTの対象となる可能性があります。上記以外の理由でも体外受精-胚移植法を勧める場合もあります。

体外受精-胚移植の流れ

 ART治療をご希望の方は、定期的に開催している【ART説明会】に事前に参加していただきます。この説明会は、ARTが高度な治療のため、よくわからないままに治療を行うのではなく、ご夫婦で治療内容につき理解したうえでART治療を受けていただくための理解を深めるための説明会です。参加は無料ですが、ご夫婦での参加をお願いしています。治療はふたりで行うものだからです。

事前準備~排卵誘発法の決定

 ARTを始める前に【AMH】を測定します。また、誘発周期の月経開始直前に卵巣の状態を超音波で観察し、それに加えて【AMH】、年齢、過去の治療歴を参考に1人1人に合った排卵誘発法を決定します。

調節卵巣刺激(排卵誘発)

 体外受精を行うことによるメリットの一つに、1回の周期で複数の卵を育てることがあります。普段、自然の周期で発育する卵はたいていは1個です。1個の卵は受精、分割、着床などいくつものハードルを越えることで妊娠に至りますが、複数の卵を育てることでそのチャンスが増えることになります。複数の卵を育てるために行うのが排卵誘発です。排卵誘発剤(FSH/HMG製剤など)を使用して、一度に多くの卵子を採取できるようにします。
 排卵誘発の方法には大きく分けて4つの方法があり、ロング法、ショート法、アンタゴニスト法、低刺激法があります。どの方法で排卵誘発を行うかはAMH、年齢、過去の治療歴を参考に1人1人に合った排卵誘発法を選択することになります。排卵誘発では投薬や連日の排卵誘発剤注射が必要になりますが、当クリニックでは通院の負担を軽減するために自己注射(患者様がご自身で注射を行う)を推奨しております。注射を始める前に看護師がしっかりと自己注射の方法を丁寧に指導しますので、多くの方が最低限の通院での治療が可能となっています。複数個の卵が発育し、おおむね18㎜以上に発育したところで排卵を促す引き金(トリガー)となる投薬(HCG注射あるいはGnRHアゴニスト点鼻薬)を行います。投薬は採卵を行う時間の34~36時間前に実施します。

採卵

 採卵とは排卵誘発で卵巣に発育した複数個の卵子を卵巣から採取する処置になります。経膣超音波を使って超音波画像を見ながら、採卵のための専用の針で発育した卵胞を穿刺して卵子の入った卵胞液を吸引します。採卵は患者様のご希望に合わせて、静脈麻酔と局所麻酔を使い眠った状態で行う場合と、局所麻酔のみを使って行う場合があります。採卵に使用する針は20G(あるいは19G)の細い針を使用しています。
 しかしながら、採卵の際に10個の卵胞を穿刺しても、必ずしも10個の卵子が回収できる訳ではありません。卵子はとれたもののまだ成熟していない「未成熟卵」や、卵胞中の卵子が壊れている「変性卵」、卵胞の中に卵子が存在しない「空胞」、これらは治療に使用することができません。このようなことが起こる頻度は、個人個人の特徴として頻度が高い人がいたり、年齢が高くなるほど増える傾向もあります。

<ご注意>

  • 超音波で確認できた卵胞の数だけ卵子が取れるとは限りません。
  • 採取された卵子が変性している場合や未熟卵の場合もあります。このような場合、体外受精は行うことができません。
  • 卵子を採取する前に排卵してしまい、採卵できない場合があります。
  • 採取された卵子がすべて受精し、胚盤胞になり、赤ちゃんになるわけではありません。

検卵、精子の調整、媒精

 採卵で吸引により採取した卵胞液は、培養室で卵子がいるかを顕微鏡下で探します。回収した卵子は培養液に移し、各個人の計画に合わせて媒精( 体外受精、顕微授精、Split )を行います。精子はスイムアップ法という方法で良好な運動精子のみを集めます。
 媒精とは、卵子を体外培養下で精子と受精させることを言い、その方法には体外受精(C-IVF)と顕微授精(ICSI)があります。どちらの方法で媒精を行うかは各個人で異なります。実際には採卵を行う前に医師と相談して決定することになります。

媒精:体外受精( C-IVF )

体外受精の解説図
採取された成熟卵に運動精子をふりかけ、その翌日、受精を確認します。

体外受精とはC-IVF( Conventional In Vitro Fertilization)と言われます。

 体外受精では、採卵で得られた成熟した卵子を培養液の入ったシャーレの中に入れ、そこに一定数の精子を入れます(媒精)。その後は専用の培養器の中で培養し、翌朝に顕微鏡下で授精の確認を行います。受精率は約60~70%といわれています。

採卵の翌日にはメール(アプリ)にて受精の有無を報告します。

媒精:顕微授精( ICSI )

顕微授精の解説図
顕微鏡下に運動精子を1個選択し、成熟卵の細胞質内に精子を注入します。

 顕微授精とは、卵細胞質内精子注入法のことでICSI(Intracytoplasmic Sperm Injectionの略)と言われています。

 通常の体外受精・胚移植の場合、受精するためには卵子1個に対して10万個程度の運動精子が必要です。したがって、運動精子の数が極めて少ないご夫婦の場合には体外受精での媒精は難しく妊娠に至ることはできません。
 しかし顕微授精では、理論上卵子1個に対して1匹の運動精子があれば受精が可能となります。このため、非常に精子が少ない方や通常の体外受精・胚移植では受精できない方(受精障害)などが適応となります。

 顕微授精では精子に必要な処置を加えた後で、顕微鏡下で精子の状態を確認します。形態が正常で良好な運動精子を、極めて細い針内に吸引し、ピペットで固定された成熟卵子の細胞質内に、特殊な顕微鏡下にマイクロマニピュレーターを用いて吸引した精子を注入します。受精の確認は顕微授精を実施してから18~20時間後に行います。顕微授精での受精率は約70~80%と言われています。

胚培養~胚の評価

 媒精の翌日に受精しているかの確認を行います。胚の受精率は100%ではありません。正常受精したもの、受精しなかったもの、正常受精と異常受精の両方の可能性があるものに分けられます。正常受精した胚と、正常受精と異常受精の両方の可能性がある胚について培養を継続していきます。

 胚培養は2日目から6日目の間で基準を満たした胚のみを、移植あるいは胚凍結を行うことになります。培養した日数に合わせて胚の凍結基準があります。2~4日目の胚は【Veeck分類】を、5~6日目の胚は【Gardner分類】を採用して胚の評価を行います。

 基準を満たした胚は凍結を行います。マイナス193度の液体窒素を用いて【Vitrification法】という方法で凍結を行います。凍結した胚は半永久的に保存が可能になります。

新鮮胚移植

※ 現在はほとんど行っておりません

  採卵後2-5日目に胚移植を行います。形態良好胚(各培養日数での基準を満たした胚)を特殊な移植用チューブを用いて子宮内へ移植します。胚移植時は痛みもなく麻酔の必要もありません。移植終了後はすぐに帰宅可能ですが、ご希望があればベッドにて15分程度の安静も可能です。胚移植後は激しい運動など無理をしなければ通常通りの生活をしても差し支えありません。

胚凍結

 培養した胚のうちVeeck分類、Gardner分類で基準を満たした胚のみを凍結することになります。マイナス193度の液体窒素を用いて【Vitrification法】という方法で凍結を行います。凍結した胚は半永久的に保存が可能になります。
【Vitrification法】は、液体窒素(-196℃)の中で胚へのダメージを与えることなく長期保存を可能とする方法です。細胞(胚)の中には水分が多く含まれるため、それが凍ると結晶になり、結晶となった水は体積が増えるために細胞の中の小器官や細胞膜を破壊してしまいます。それを防ぐため、凍結保護剤を用い、できるだけ細胞の中が壊れないような冷却方法を工夫して、胚の損傷を防ぎながら保存します。胚は専用のストローの中に封入し液体窒素保管器の中で保存します。凍結胚は専用の液体窒素タンクに詳細な記録と共に施錠を行ったうえで厳重に保管します。

培養何日目の胚を移植する?

 受精後、胚の分割が順調にすすみ移植基準を満たす良好胚ができれば、胚の凍結あるいは胚移植を行います。移植には以下の方法があります。

  • 培養2日目、3日目の胚を移植する『初期胚移植』
  • 培養5日目の胚を移植する『胚盤胞移植』
  • 培養2、3日目の胚を1個、培養5日目の胚を1個、同じ周期に合計2個移植する『二段階胚移植』

 どの方法を選択するかは採卵で得られた卵の数、過去の治療歴などにより、患者様と相談のうえで決定します。

『初期胚移植』について

 採卵で得られた卵は媒性後、採卵翌日には授精し、2細胞→4細胞→8細胞と分裂を続けていきます。初期胚移植は、採卵して、培養2~3日目の移植基準(凍結基準)を満たした胚を移植することを言います。初期胚の評価は【Veeck分類】を用いて評価します。割球の大きさが均等か?不均等か?と、フラグメント(細胞分裂の際にできた細胞の破片)の多さでGrade1~5に分類します。

『胚盤胞移植』について

 採卵で得られた卵は媒精後分裂を続けていきます。そして、培養5日目には「胚盤胞」と呼ばれる状態に至ります。胚盤胞の評価は【Gardner分類】を用いて評価します。その評価は、まずは胚盤胞をさらに成長段階に合わせて6段階に分類します。そしてGrade3(完全胚盤胞)以上の胚については、内細胞塊(将来胎児になる細胞群)と栄養外胚葉(将来胎盤になる細胞群)の状態をA~Cの3段階に分類します。より細胞が多いものをA、細胞が少ないものをC、中間をBとします。

 胚盤胞移植は、初期胚移植よりも長期に培養を行うために、より良好な胚を選択する事が可能となります。しかし、皆に胚盤胞移植が有効であるとは限りません。以下に記載しますが胚盤胞移植にもメリットとデメリットがあります。患者様の状況に合わせて最適な移植を選ぶことに

『二段階胚移植』について

 培養2、3日目の胚を1個、培養5日目の胚を1個、それぞれの日に合計2回の胚移植を行い合わせて2個の胚移植するのが『二段階胚移植』になります。同じ日に2個の胚を移植する「2個胚移植」がありますが、これは1+1=2という考え方で、言うなれば当たりくじが二つ入った抽選を行うようなものです。一方『二段階胚移植』は1+1=2+α(アルファ)になるという考え方です。初期胚を先に子宮に戻すことで、続く胚盤胞を移植した時により着床しやすくなる可能性があるという方法になります。そのため、年齢の高い方、何回かの移植を行うも妊娠に至らない方が対象となります。

胚盤胞移植のメリット

1 妊娠率の上昇

 採卵で得られた受精卵には一定頻度での染色体異常があります。こうした異常のある受精卵は分割~着床の段階で成長が停止したり、着床後にも流産という形で淘汰を受けることになります。胚盤胞はその淘汰の過程を初期胚よりもすでに受けた後の胚である可能性が高くなります。そのため胚盤胞移植は初期胚移植よりも高い妊娠率得られます。

2 多胎妊娠の防止

 受精卵の移植数を増やせば妊娠率は上昇する一方で、多胎妊娠率は増加します。妊娠率の高い胚盤胞移植を行うことで、1個の胚で高い妊娠率が得られ、かつ多胎妊娠を予防できるというメリットがあります。

胚盤胞移植のデメリット

1 胚移植キャンセルのリスク

 受精卵のうち胚盤胞に到達できる割合は一般的には30~40%と言われています。採卵で得られた卵が少ない場合に胚盤胞を目指して培養した場合には、胚盤胞が一つもできずに移植ができない場合があります。

2 現在も進化する体外での胚培養

 本来、受精した卵は卵管の中で分割成長し、子宮腔に戻ってきます。現在可能となった胚盤胞までの培養ですが、実際には本来の卵管の環境を完全に再現できているとは言えません。現在も培養液の研究は世界中で行われています。体外での培養環境、培養液はまだまだ改善の余地があるといえます。このため、本当は妊娠できた胚が体外環境のために培養途中で死んでしまう可能性があるとも言えます。
 当クリニックでは採卵で得られた卵子の個数や過去の治療経過から、患者様に合わせて初期胚までの培養にするか?胚盤胞までの培養にするかを検討しています。

凍結融解胚移植

Vitrification法で凍結した胚を移植日に合わせて融解します。

 凍結融解した胚は、移植の前に透明帯(胚を包んでいる殻のようなもの)の一部を薄くして、胚が孵化(ハッチング)するのを手助けする処置です。当院ではレーザーを用いて行っておりレーザーアシステッドハッチング(Laser Assisted Hatching)と言います。

 胚移植は手術室で行います。胚移植を行うために、まずは腟の奥にある子宮の入り口から細いカテーテルを挿入します。そのうえで更に細くて柔らかいカテーテルに移植胚を載せて、経腟超音波(エコー)で確認しながら胚を子宮内に移植します。胚移植時は痛みもなく麻酔の必要もありません。移植終了後はすぐに帰宅可能ですが、ご希望があればベッドにて15分程度の安静も可能です。胚移植後は激しい運動など無理をしなければ通常通りの生活をしても差し支えありません。

ホルモン補充

  凍結融解胚移植にはホルモン補充周期での移植と、自然周期による移植があります。現在は9割以上の方がホルモン補充周期での凍結融解胚移植を行っています。ホルモン補充周期では通院回数が少なくて済むこと、移植日をある程度自由に決められること、子宮内膜が安定して厚くなるなど利点が多くあるためです。
 ホルモン補充は、卵胞ホルモンは内服または貼り薬を使用します。黄体ホルモン剤は内服薬と膣座薬を使用します。

妊娠判定

  凍結融解胚移植では黄体ホルモンを開始した日を『妊娠2週0日』として妊娠週数を計算します。妊娠判定は『妊娠4週0日』前後に行います。移植胚が順当に着床していた場合にはこの時点で妊娠反応が陽性になります。
 当クリニックでは採血でHCGを測定することで妊娠判定を行います。判定日前後には月経様出血があることがありますが、月経ではなく妊娠初期の不正出血の場合もありますので自己判断で投薬は中断せずに判定日に必ず受診していただきます。

体外受精にともなう合併症等

 合併症とは本来起きて欲しくはないものの、最大限の注意を払っても一定頻度起きてしまう事象のことです。

OHSS(卵巣過剰刺激症候群)

 排卵誘発を行い卵胞が多数発育することにより、採卵数日後や新鮮胚移植後の妊娠初期に発生する合併症です。以前は比較的多くみられましたが、近年は排卵誘発法の進化発展によりほとんどみられなくなってきています。
 採卵数日後に生じるOHSSの原因は、採卵を行う2日前に使用する排卵刺激として使用するHCGにあります。このため、OHSSになりやすい方には、HCGを投与しなくてもよい刺激法であるアンタゴニスト法が第一選択となります。HCGを使用しないことでOHSSはほぼ防ぐことができます。
 妊娠初期に発生するOHSSの原因は妊娠反応である母体から出るHCGが原因です。妊娠の経過とともにHCG分泌は上昇するため、このタイプのOHSSは重症化しやすいと言われています。妊娠を防ぐことはできないため、新鮮胚移植を避け、凍結融解胚移植を行うことがOHSSの予防につながります。
 OHSSの病態は、血液中の水分が腹水や胸水として貯留し、逆に血管の中は脱水となるため血液が濃縮してドロドロとなり血栓症(重症の場合は脳梗塞や肺梗塞など)を引き起こす医原性の病気です。主症状は腹部膨満感、胃部不快感、尿量減少などです。過排卵刺激後、個人差はありますが、多少の腹部膨満感は出現します。

<OHSSになりやすい方>

  • 年齢の若い方
  • 痩せている方
  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方
  • AMH値が高い方
  • 採卵時の卵胞ホルモンが3000pg/mlを超えた方
  • 採卵された卵子の数が20個以上の方
  • 新鮮胚移植で妊娠した方

  これらに該当する方は特に注意が必要となります。

多胎妊娠

  多胎妊娠では早産、未熟児、帝王切開率の増加、妊娠中毒症などの医学的問題が多く、双胎妊娠での1歳までに死亡するリスクは単胎妊娠での7倍、脳性麻痺は4倍、三胎妊娠ではそれぞれ20倍、17倍に増加するという報告もあります。このように多胎妊娠では単胎妊娠にくらべ、母子ともにリスクが非常に高くなるため、多胎妊娠を予防することが重要です。
 2016年日本産科婦人科学会のデータでは体外受精-胚移植後の多胎妊娠の発生頻度は新鮮胚移植で3.0%(凍結胚移植で3.3%)と低値でありますが、移植胚数が増えれば多胎妊娠の発生頻度が増加します。このため日本産科婦人科学会の会告にあるように、当院では胚移植数は原則1個とさせていただきます。ただし、2回以上体外受精胚移植を行っても妊娠されなかった方や35歳以上の患者さまには2個胚移植を行うこともあります。

2008年4月12日 日本産科婦人科学会の生殖医療における多胎妊娠防止に関する見解


 生殖補助医療の胚移植において、移植する胚は原則として単一とする。ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する。治療を受ける夫婦に対しては、移植しない胚を後の治療周期で利用するために凍結保存する技術のあることを、必ず提示しなければならない。

異所性妊娠

  子宮内に胚を移植していても、子宮外妊娠を起こすことがあります(1~3%)。子宮内に移植した胚でも、卵管にもどり再び子宮内に着床することもあると言われています。卵管の状態が良くない場合には、子宮内に移植した胚が卵管に戻りその場に着床してしまい子宮外妊娠となってしまいます。

採卵のリスク

  採卵時にまれに腹腔内、卵巣内部に大量出血したり、感染を起こすことがあります。そのため採卵後は約30-60分安静にしていただき、安静終了後診察を行います。これらの合併症が重症の場合入院加療が必要となります。また頻度は少ないですが外科的手術が必要になる可能性もあります。

先天異常、流産

  体外受精・胚移植による妊娠では、自然妊娠と比較して流産率が高い(約20-25%)と言われています。また早産率・低出生体重児・先天異常・NICU入院・帝王切開、などの発生率は、自然妊娠と比較して若干増加すると報告されています。現在のところ、生まれた子供(新生児)の奇形の報告は、自然妊娠と概ね同等の率であると報告されています。また、欧米での統計では、体外受精で生まれた児の、就学時の知能、運動能力等は自然妊娠児のそれらと差はなかったと報告されています。しかしながら本治療法の歴史、並びに長期の経過観察ができていない現状より、児の長期予後に関してはいまだ判明していない部分もあります。

治療のキャンセル

  以下の理由で本法の実施を途中で中止、あるいは変更する場合があります。

  • 卵胞の発育が不十分で採卵が行えない場合
  • 卵子がひとつも取れなかった場合
  • 卵子が採取できたにもかかわらず、正常受精が起こらなかった場合
  • 受精卵の分割が不十分で、すべての胚が移植に適さないと判断された場合
  • 採卵前に排卵してしまった場合

体外受精に代わる治療法

  体外受精で受精卵が得られない場合、または体外受精を反復しても妊娠が成立しない場合には、次回の治療より、顕微授精の適応になることがあります。また、体外受精を予定している周期で、当日の精液の性状が不良なため、体外受精にて受精する可能性が極めて低いと判断される場合、ご相談のうえ、一部または全部の卵について顕微授精を行うことがあります。

不測の事態による影響

  当院では、卵、精子、胚に関しては厳重な管理体制をとっております。しかし、天災、地震、火災、水害などでインキュベーターの破損や転倒などがあった場合、突然の停電でクリニックへの電気の供給が止まってしまった場合など、不測の事態による卵、精子、胚への影響を回避できないことも有り得ます。
  また、当クリニックが閉院となる場合は事前に連絡させていただきます。しかし、何らかの理由(医師の急死など)で当クリニックが突然閉院となった場合、事前の連絡なしに体外受精が中止になることがありますのでご了承ください。

カウンセリングについて

  ご希望の方は医師、看護師にお申し出ください。遺伝相談に関してはにしかわウイメンズレディースクリニック、あるいは札幌医科大学産科周産期科と連携しており、遺伝専門外来をご紹介させていただきます。

お願い

 患者様の個人情報は、個人情報保護法及び当院の規約で取り扱います。生殖医療を実施した場合には、その経過と結果を日本産科婦人科学会に報告する義務があります。ご面倒かと思いますが、出産報告を当院までご連絡いただくようご協力お願いいたします。また、治療経過に関する情報は、個人が特定されない形で解析したり、日本産科婦人科学会へ報告することがあります。

出産報告のはがきは学会への報告もありますが、私たちクリニックの職員皆が楽しみに待っているものです。我々は出産を取り扱っていないクリニックのため、実際の出産に立ち会うことはできませんが、出産報告のはがきをいただくことで幸せな気持ちを共有することができ、クリニックの今後のモチベーションにもつながるものです。皆さんのご報告を是非お待ちしています。

ご質問について

 体外受精-胚移植に関してのご質問は、医師または看護師がお応えいたしますので、受診の際にご相談ください。

画像提供:メルクセローノ(株)

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