卵子凍結について、解説します。

目次

卵子凍結とは?

 初めに、ここでお話する卵子凍結は日本産科婦人科学会がいう『ノンメディカルな卵子凍結』の話になります。健康な未婚の女性が将来の妊娠のために卵子を凍結保存しておくことを指します。別な言い方では『社会的適応による未受精卵子の凍結』『医学的適応のない未受精卵子の凍結』という言い方をする場合もありますが、この3つは同様の意味となります。

 現時点では結婚や妊娠の予定がない健康な未婚の女性が、将来の妊娠に備えて少しでも年齢の若いうちに質の良い卵子を採取し凍結保存(未受精卵凍結)しておくことです。近年、日本でも急速に広まってきています。

 女性は加齢により妊孕性(妊娠する力)が低下することが分かっています。これはデータ(生殖医療Q&A(Q22))で見ることができます。このことは、年齢が高くなるほど女性の持っている卵子の質が低下していくことを指しています。質の低下の一番の要因は染色体異常の発生率が、年齢が高くなるほど高くなるということに起因します。

以上から、卵子凍結の一番の目的は、今はまだ結婚や妊娠の予定はないが、年齢の若いうちに卵子を保存しておいて、人生のパートナーが見つかったのちに保存しておいた卵子を使用することで、加齢による妊娠する能力の低下を回避する方法として注目されています。

 これだけ見ると卵子凍結(未受精卵凍結)は魔法の方法のように聞こえますが、デメリットもあります。さらに踏み込んで言うと、現時点ではどちらかというとデメリットもたくさんあります。耳触りの良いこと(卵子凍結のメリット)だけをもって卵子凍結(未受精卵凍結)を検討するのではなく、きちんとデメリットも理解したうえで卵子凍結を検討して“あなた”にとって卵子凍結が本当に将来のあなたにとっての有用な選択肢となるのかを考えていただきたいと思っています。

まずは卵子の基本を知る

 まずは、卵子の基本を知りましょう。ここに書いていることは日本生殖医学会が一般の方へ向けての疑問に答えた【Q&Aページ】に記載されている内容です。学会ではデータをもとに解説しています。基本的なことですがとても大事なことになります。

  1.  女性は年齢が高くなると妊孕性(妊娠する力)が低下します。生殖医療Q&A(Q22)
  2.  女性は年齢が増加すると生殖補助医療による妊娠率・生産率が低下します。生殖医療Q&A(Q22)
  3.  女性は加齢により卵子の数が減少していきます。生殖医療Q&A(Q24)
  4.  女性の加齢による妊孕力の低下の主な原因は、卵子の質の低下です。生殖医療Q&A(Q24)
  5.  加齢に伴い卵子の染色体異常が増加します。生殖医療Q&A(Q24)
  6.  卵子の質が低下するメカニズムは現在のところ不明です。生殖医療Q&A(Q24)

卵子凍結の科学的データ(海外の論文資料)

ここでは、卵子凍結をする際に、より具体的なイメージをたてるために有用な海外のデータをいくつか紹介します。

R.H.Goldman, Human Reproduction, Vol.32, No.4 pp. 853–859, 2017
Predicting the likelihood of live birth for elective oocyte cryopreservation: a counseling tool for physicians and patients

選択的卵⼦凍結を希望する女性が、生児を得られるかの可能性を予測するためのデータを提供してくれています。年齢と凍結できた卵子の個数によってどのくらいの確率で生児を得られるのかを数値化して提示してくれるツールとしてデータを提示しています。

自分の年齢のグラフを色別で探して、凍結した個数を横軸に、何個凍結できれば、少なくとも1人の生児を得られる確率を算出できるグラフになります。

※ グラフの中の”Donor”のグラフは平均年齢28歳のグラフになります。

 

グラフからいくつかの年齢と、個数を抽出して表にしたものです。凍結個数が2倍になったからと言って、確率が2倍になるわけではないことに注意が必要です。

※ この表は日本産科婦人科学会が「ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ」の動画内で上記論文の前述グラフから作成した表になります。
ポイント

このグラフを利用することで、自分が卵子凍結する場合にどれくらいの数の卵子を凍結することで、自分が期待を持てる数字を確保できるか予想することができます。

 

J. Dik F. Habbema, Human Reproduction, Vol.30, No.9 pp. 2215 –2221, 2015
Realizing a desired family size:when should couples start?

カップルが子供を希望した際に、何歳から妊活を始めることでどのくらいの確率で希望する人数の子供を得られるか?を計算したモデルになります。また自然妊娠での可能性と、体外受精を行う前提での妊娠の可能性に分けて数値を出しています。女性自身、あるいはカップルで実際に少しイメージがわくでしょうか?

妊活開始年齢は、希望する子供を得る可能性に⼤きく影響します。表の上部には、体外受精を行わない場合の妊活開始年齢が⽰されています。 例えば、2⼈の⼦供を持ちたいと考えており、90%の⾼い確率で⼦供を産みたいと考えているカップルは、遅くとも⼥性27歳までに妊活を始めるべきです。 75% の確率で2人⼦供を産みたいと考えているなら 34 歳、50%の確率で2人⼦供を産みたいと考えているなら 38 歳と、期待値(目的を成就する確率)が低くても良ければ妊活開始年齢は遅くても大丈夫です。また、2⼈の⼦供を持ちたいと考えており体外受精での治療を前提とした場合には 90%の⾼い確率で⼦供を産みたいと考えているカップルは妊活開始年齢は31歳でも可能となります。

ポイント

あなたの人生設計では何人の子供が欲しいですか?必ず二人?できれば二人?二人できればいいな、、、など、あなたの人生設計から逆算して何歳から妊活することで希望をかなえられる可能性が高くなるのか?の具体的なイメージを提案してくれるデータになります。

 

ASRM, Fertility and Sterility: 99(1)37-43
Mature oocyte cryopreservation: a guideline

アメリカ生殖医学会(ASRM)が発表した卵子凍結に関するデータです。卵子凍結の有用性や、凍結卵子を使用してのちに体外受精を行う際の卵子の生存率や、受精率、最終的な出生率などのデータを提示しています。

この表は日本産科婦人科学会が「ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ」の動画内で、上記論文とLiang T, and Motan T. Advances in Experimental medicine and biology 2016から作成した図になります。

卵子凍結さえしておけば、将来の子供のことも安心!と短絡的に考えるのではなく、実際の数字上のデータを見たうえで、本当にあなたが安心と思える数字なのか?場合によっては、それっぽっちの数字にしかならないの?と思うのかを、きちんと数字を見てあなた自身が判断して欲しいと考えています。

年齢や状況によっても異なりますが、この論文では卵子1個あたりの出生率は4.5~12.0%と述べています。

ポイント

卵子凍結はあなたの将来の妊娠出産を100%保証してくれるわけではありません。ふんわりとしたイメージではなく、数字データをもってより具体的に卵子凍結を理解するための基礎的なデータとなります。

 

卵子凍結のメリット

とにかく、これがメリットです。

◆加齢による卵子の質の低下を、卵子を凍結保存しておくことで回避することが出来る。

卵子凍結のデメリット

・凍結することによる卵子の質の低下

  卵子は受精卵と比較して、凍結融解により細胞の組織破壊が起こりやすいという特徴があります。これはすなわち、融解時に卵子が死んでしまったり、生存していても卵子の質が低下してしまうということを意味します。

・たくさんの卵子を凍結保存しておく必要がある。

前述の卵子の質の低下は、実際に将来凍結した卵子を融解して治療を行う際に、その後の受精や受精卵の発育(発生)に悪影響を及ぼします。このことから鑑みても、卵子凍結は受精卵凍結と比較してより多くの卵子を凍結保存しておかないといけないということになります。これは年齢にもよりますが、最低でも10個以上の卵子を凍結しておくことが望ましいといえます。

・卵子凍結は自費診療となるので費用が高額になる

  現在、体外受精については条件付きながらも保険適用となりました。卵子凍結は保険適用ではないため自費診療となります。卵子凍結にかかる費用と、凍結した卵子を保存しておく費用(1年毎に更新費用が掛かります)がかかるため高額になりやすい。さらに、将来人生のパートナーが見つかり、凍結した卵子を用いて体外受精を行う(受精方法は顕微授精が必要)際にも原則自費での体外受精が必要になります(2023年6月30日現在の状況です)。

・過度の安心感は危険である

卵子凍結はあくまでも、将来のための保険のようなものと考えます。もちろん何もせずに将来を迎えるよりも、卵子凍結をすることで将来赤ちゃんを抱ける可能性は高くなります。しかし、「卵子を取っておけば私は大丈夫」という考えが、卵子を凍結しない場合より一層の「高齢出産を助長する」可能性があります。実際に卵子を使って治療行う年齢が高くなることは、より妊娠しにくい状況になること、また治療後の妊娠に至った場合にも出産に伴う合併症の発生率が極めて高くなり、元気な赤ちゃんを抱くという確率を下げることに繋がります。

卵子凍結に関する学会の見解

2013年11月15日に日本生殖医学会は、倫理委員会報告として
社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン」を公表しました。

原文については、上記をクリックすると見ることが出来ます。内容については下記に記載します。特に重要なところにはアンダーラインをつけています。

  1.  加齢等の要因により性腺機能の低下をきたす可能性を懸念する場合には、未受精卵子あるいは卵巣組織(以下「未受精卵子等」という)を凍結保存することができる。
  2.  凍結・保存の対象者は成人した女性で、未受精卵子等の採取時の年齢は、40歳以上は推奨できない。また凍結保存した未受精卵子等の使用時の年齢は、45歳以上は推奨できない
  3.  本人の同意に基づき、未受精卵子等を凍結・保存することができる。
  4.  実施にあたっては、口頭および文書を用いて、未受精卵子等の採取、凍結と保存や、凍結された未受精卵子等による生殖補助医療(顕微授精)について十分に説明し、本人の同意を得るインフォームド・コンセント(IC)を実施しなければならない。
  5.  未受精卵子等は、本人から破棄の意志が表明されるか、本人が死亡した場合は、直ちに破棄する。また、本人の生殖可能年齢を過ぎた場合は、通知の上で破棄することができる
  6.  未受精卵子等を、本人の生殖以外の目的で使用することはできない。
  7.  本人から破棄の意志が表明され、また凍結された未受精卵子等を本人が生殖医学の発展に資する研究に利用することを許諾した場合であっても、当該研究等の実施に当たっては、法律や国・省庁ガイドラインに沿い、IC などを含めた必要な手続きを改めて施行しなければならない。

2018年3月30日に日本生殖医学会は、倫理委員会報告として
未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関する指針」を公表しています。

原文については、上記をクリックすると見ることが出来ます。内容は医学的適応のある未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存の内容も含まれるため、ここでは医学的適応のない未受精卵子の凍結保存に関する記載のみを抜粋して掲載します。

・医学的適応のない未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存について

(対 象)
1) 加齢等の要因により性腺機能の低下をきたす可能性がある場合には、未受精卵子あるいは卵巣組織(以下「未受精卵子等」という)を凍結保存することができる。
2) 凍結・保存の対象者は成人した女性で、未受精卵子等の採取時の年齢は、36歳未満が望ましい
3) 同意取得にあたっては、口頭および文書を用いて、未受精卵子等の採取、凍結と保存や、凍結された未受精卵子等による生殖補助医療(ART)について十分に説明し、インフォームド・コンセント (IC) を得る。

(実施施設)
4) 未受精卵子等の保存施設と、それらを用いてARTを実施する施設は、同一であることを原則とする。

(未受精卵子等の保存)
5) 未受精卵子等の保存においては、各施設が十分な長期間にわたり保存する設備を備える必要がある。また、各施設は定期的に対象者と保存の意思を確認することが望ましい。
6) 未受精卵子等は、対象者から破棄の意志が表明されるか、対象者が死亡した場合は破棄する。
また、対象者の生殖可能年齢を過ぎた場合は、通知の上で破棄することができる

(その他)
7) 凍結保存された未受精卵子等の売買および譲渡は認めない。
8) 未受精卵子等を、対象者の生殖以外の目的で使用することはできない。
ただし例外として、対象者から破棄の意志が表明され、凍結された未受精卵子等を対象者が生殖医学の発展に資する研究に利用することを許諾した場合は、法律や国・省庁ガイドラインに沿い、ICなどを含めた必要な手続きを改めて施行した上で使用することができる。
9) 凍結保存した未受精卵子等の使用にあたっては、加齢による周産期リスクの上昇を十分に考慮する。

注釈
項目3) のICにおいては、生殖医療担当医は以下の諸点について説明する。
(1) 未受精卵子等の凍結保存の方法ならびに予想される成績とリスク
(2) 凍結保存した未受精卵子等の保存期間および破棄の手続き
(3) 凍結した未受精卵子等を用いたARTの詳細および将来妊娠する可能性と妊娠した場合の安全性
(4) 凍結および保存の費用、その他


2023年5月25日に日本産科婦人科学会は、
ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ」動画ならびにポスター公開のお知らせ を公表しています。

上記をクリックすると学会のホームページを見ることが出来ます。卵子凍結を考えるにあたって、とても参考になる動画です。是非見ていただけたらと思います。また、日本産科婦人科学会のノンメディカルな卵子凍結に対する見解を下記に記載しておきます。

ノンメディカル卵子凍結に関する日本産科婦人科学会の考え方

  1. あくまでも当事者の選択に委ねられる事項である。
  2. 推奨も否定もしない(本会は、多くの女性がノンメディカルな卵子凍結について心配しないで済む社会環境が実現することを切望しています)。
  3. 本会は、当事者女性、社会に対して正確な情報提供(動画)を行うことが必須。
  4. 本会は、希望者は本会の動画を視聴し、その内容を理解・納得して行うかどうかの決定をすることを推奨する。
  5. 卵子などの保存が、本会生殖補助医療登録施設と関係なく希望者と会社の契約というような形で行われ、医療者の手から離れる可能性があることについて十分に検討する必要がある。

当院の卵子凍結に関するルール

 

当院では、日本産科婦人科学会、並びに日本生殖医学会の医学的適応のない未受精卵子の凍結に関する指針/ガイドラインに基づいて、卵子凍結に関する規定を決定しています。

  1. 採卵する年齢は満40歳の誕生日までとします。
  2. 凍結未受精卵の保存管理は満45歳の誕生日までとします満45歳を超えての延長保存は、凍結未受精卵を使用して妊娠した場合の母体と胎児の安全性を考慮すると危険が大きいと考えられるため破棄となります。そのため、45歳の誕生日を迎えた時点または本人が亡くなられた場合には破棄となります。
  3. 凍結未受精卵は、1年毎の更新手続きが必要となります更新手続きの際には更新申込書、更新費用が必要となります。
  4. 凍結未受精卵を使用して妊娠を目指す場合は、パートナーの精子を提出していただき顕微授精で妊娠を目指すこととなります法律婚/事実婚どちらの場合にも治療は可能になります。当院で行っている体外受精、顕微授精と同様の同意書に両名の署名が必要になります。事実婚の場合も前者に準じた書類並びに事実婚の治療に伴う書類の提出が必要となります。

卵子凍結の実際

 
基本検査

はじめに一度受診していただき、卵子凍結に必要な基本検査を行い、結果を踏まえて何個くらいの卵子を凍結するべきかを、論文データを参考に相談した上で、実際の卵子凍結を開始します。

 
排卵誘発剤による卵巣刺激/採卵

複数の卵子を育てるために、排卵誘発剤(主に注射剤)を使用して卵巣刺激を行います。刺激中は数回の通院を必要とします。通院時には超音波検査による発育卵胞の観察とホルモン採血を行います。卵胞が十分に発育したのちに採卵を行います。採卵は静脈麻酔下で膣から細い採卵針を使って行います。

 
卵子凍結

採取した卵子は、Vitrification法 (超急速ガラス化法)を用いて液体窒素下で凍結保存します。凍結保存しておくことで加齢による妊孕力の低下をきたすことなく、妊娠を希望する時期まで保管しておきます。

将来凍結卵子で妊娠を目指す場合には、、、

さらに、将来人生のパートナーが見つかり、凍結した卵子を用いて体外受精を行う(受精方法は顕微授精が必要)際には、原則自費での体外受精が必要になります(2023年6月20日現在の状況です)。

 

最後に

将来、あなたが理想のパートナーと人生を共にし、自然妊娠することが出来れば何も問題はありません。そして、その可能性があるのも事実です。あくまでも現時点でその予定がない健康で未婚の女性にとって、加齢による卵子の質の低下を回避する方法の一つとして卵子凍結は有用な選択肢の一つといえます。

しかし、卵子凍結がすべての人に有用とは言えません。年齢や、卵巣予備能(AMH値など)の状況によっては将来の赤ちゃんを期待できると言える数字(将来赤ちゃんを抱ける確率)が決して高くない方もいます。その状況は個々人で異なります。当クリニックではまずは現在のあなたの現状を評価して、あなたが卵子凍結で得られる可能性をできるだけ正確に提示し、その数字(将来赤ちゃんを抱ける確率)が将来のあなたにとって有用といえる数字なのかを判断していただいた上で、実際に卵子凍結を行うかを決めていただきたいと思っています。

ポイント

大事なことは、自身のライフプランを出来るだけ具体的にシュミレーションすることです。仕事のキャリアはもちろん、プライベートのプランも併せて考えること、、、これはまさしく、当クリニックが推奨しているプレコンセプションケアに通じることになります。

 

新しいクリニックブログ

クリニックのブログサイトがあります。院長、スタッフが毎月の妊娠数や出産報告、コラムなど色々と発信しているサイトです。一度見に来てくださいね。

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