- 採卵の処置そのものは5~10~20分程度。来院から帰宅までは、麻酔の種類にもよりますがおおむね2〜4時間です。
- 最も大切な準備は、採卵の約35〜36時間前に行う時間指定の注射・点鼻薬。ここがずれると採卵そのものが成立しません(時間は個人によって異なるので、医師の指示に従って行ってください)。
- 痛みは麻酔でコントロールできます。局所麻酔と静脈麻酔があり、採卵数や痛みへの不安の強さを踏まえて選びます。
- 採卵後に強い腹痛・急な体重増加・尿量の減少があればOHSSの可能性があります。そのような場合にはクリニックにご連絡ください。
1. 採卵とは?体外受精の第一歩
採卵とは、卵巣の中で育った卵胞(卵子が入っている袋)に細い針を刺し、中の卵胞液ごと卵子を体外へ吸い出して採取する処置です。
採取で得られた卵子は培養室へ運ばれ、パートナーの精子と受精させます(体外受精または顕微授精)。そこから受精卵(胚)として育てていくことになります。
処置自体は通常5~10~20分程度で終わり、入院の必要はありません。日帰りです。
なお、採卵に向けてどのように卵胞を育てていくか(排卵誘発法)には複数の方法があり、年齢や卵巣の状態によって選び方が変わります。こちらは「調節卵巣刺激法(誘発方法)の種類とスケジュール|検査室だより」で解説しています。
2.採卵前の準備|前日・当日の注意点
時間指定の注射・点鼻薬は、指示された時間厳守で正確に!
採卵の約35〜36時間前(時間は個人によって異なるので、詳しくは採卵決定時の際にお渡しする指示書に正確な時間が明記されています)に、卵子を最終的に成熟させるための注射(hCG注射)や点鼻薬を使用します。
この「時間指定の薬」は、準備のなかで最も重要です。指定時刻からずれると、採卵の前に排卵してしまったり、卵子が十分に成熟しないまま採卵日を迎えてしまったりします。せっかくここまで育ててきた卵胞が、無駄になってしまう可能性があります。
スマートフォンのアラームを2つ設定しておく、パートナーにも時刻を共有しておくなど、十分に備えをしておいて、ちょうどよいと思います。
採卵当日の絶飲食について
採卵当日は、麻酔中の嘔吐による誤嚥を防ぐため、食事と水分の制限をお願いしています。
制限の時間は、使用する麻酔の種類(局所麻酔か静脈麻酔か)によって異なります。当院からお渡しする指示書に時刻を明記していますので、必ずそちらに従ってください。「少しだけなら」と水を飲んでしまうと、安全のために採卵を延期せざるを得ないことがあります。
当日お持ちいただくもの・控えていただくこと
| 項目 | 内容 | 理由 |
| メイク・ネイル | 控えてください | 顔色や爪の色で血中酸素飽和度を確認するため |
| アクセサリー・コンタクトレンズ | 当日にあらかじめ外してきてください | 安全確保のため |
| 服装 | ゆったりした服で | 術衣への着替え・処置後の負担軽減のため |
| 前日の過ごし方 | 激しい運動は避け、睡眠を十分に | 体調を整えて当日を迎えるため |
| お車の運転 | 静脈麻酔の場合は不可 | 麻酔が覚めるまで判断力が低下するため |
3.採卵当日の流れとスケジュール
ご来院から帰宅まで、当日はこのように進みます。
| ステップ | 所要時間の目安 | 内容 |
| ① ご来院・受付 | — | 指定の時刻にご来院いただき、ご本人確認を行います |
| ② お着替え・術前準備 | 約20〜30分 | 回復室で術衣に着替え、点滴の準備をします |
| ③ 採卵(手術室) | 5~10~20分 | 超音波で卵胞を確認しながら、膣から針を刺して卵胞液を吸引します |
| ④ 回復室で安静 | 30分〜2時間 | 麻酔の種類と体調により異なります |
| ⑤ 診察・ご帰宅 | 約15分 | 採卵できた数をお伝えし、抗生物質などを処方します |
採卵の時間は、採取する卵子の数によって変わります。1〜2個であれば数分、10個を超えるようであれば15分近くかかることもあります。数が多い場合には30分程度かかる場合もあります。
4.採卵の痛みはどのくらい?麻酔の種類と選び方
「どのくらい痛いですか」。これが、採卵について最もよくいただくご質問です。
正直にお答えすると、痛みの感じ方には個人差があり、採取する卵子の数や卵巣の位置によっても変わります。「全員がこのくらい」と言い切れるものではありません。
ただし、痛みは麻酔でコントロールできます。当院では患者様とご相談のうえ、主に次の2種類から選んでいます。

どちらを選ぶかについて、私は「痛みに強いか弱いか」で決める必要はないと考えています。痛みを我慢することに医学的なメリットはありません。不安が強いのであれば、それは静脈麻酔を選ぶ十分な理由になります。
一方で、採卵数が1〜2個の見込みで、当日にどうしても車を使いたい、仕事に戻りたいという事情があるなら、局所麻酔のほうが生活に合うこともあります。ご希望と、予想される採卵数、既往歴を踏まえて、一緒に決めていきましょう。
5.採卵後の過ごし方と、連絡していただきたい症状
採卵当日は、次の点に気をつけてお過ごしください。
- 安静に:激しい運動や重いものを持つことは避け、できるだけ横になってお過ごしください。
- 入浴:感染予防のため、当日は湯船に浸からずシャワーのみとしてください。
- 軽い腹痛・少量の出血:採卵後数日、下腹部の軽い痛みや張り、茶色〜ピンク色の少量の出血が続くことがあります。針を刺したことによる反応で、多くは心配のないものです。
ただし、次の症状があるときは、我慢せずにご連絡ください。
| 症状 | 考えられること |
| 我慢できないほどの強い腹痛 | 腹腔内出血、OHSS など |
| 生理2日目より多い出血 | 穿刺部位からの出血 |
| 38℃以上の発熱 | 感染 |
| お腹の張りが強く、急に体重が増えた | OHSS |
| 尿の量が目に見えて減った | OHSS |
| 息苦しさ、吐き気で水分が取れない | OHSS(重症化のサイン) |
OHSS(卵巣過剰刺激症候群)について
採卵後にとくに注意していただきたいのが、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)です。排卵誘発剤によって卵巣が過剰に反応すると、卵巣が腫れ、お腹や胸に水がたまることがあります。厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル」でも、早期発見と対応の重要性が示されています。

当院では、採卵数や血中エストラジオール値をモニタリングし、リスクが高いと判断した場合には、基本的に全胚凍結(採卵した周期には移植せず、次の周期以降に移植する方法)を選ぶことで、OHSSの予防に努めています。
▶︎検査室だより-42(卵巣過剰刺激症候群(OHSS)とは?初期症状やリスク因子)
6.採卵した卵子は、そのあとどうなる?
採卵が終わると、患者様の「不安」は、今度は培養室のほうへ移っていきます。「ちゃんと受精しているだろうか」「育っているだろうか」と。
採卵当日に受精させ、翌日に受精の確認、3日目ごろに初期胚、5〜6日目に胚盤胞—という流れで、胚培養士が毎日観察しています。胚盤胞まで育ったものはガラス化保存(Vitrification法)で凍結し、次の周期以降に移植します。
この1週間、培養室で何が行われているかについては、当院の胚培養士が書いた「顕微授精・体外受精の受精卵はどう育つ?胚培養士の仕事と1週間」をお読みいただくと、イメージしやすいと思います。
7.採卵に関するよくある質問
Q. 採卵は何分くらいで終わりますか?
処置そのものは5~10~20分程度です。採取する卵子の数によって変わります。来院から帰宅までは、着替えや術前準備、処置後の安静を含めて、おおむね2〜4時間を見ておいてください。静脈麻酔の場合は長めになります。
Q. 採卵当日、仕事は休んだほうがいいですか?
当日はお休みを取っていただくことをおすすめします。とくに静脈麻酔を選ばれた場合は、車の運転ができず、処置後も眠気が残ることがあります。翌日からは、体調に問題がなければ通常どおりお過ごしいただけます。
Q. 採卵できる卵子の数は、どのくらいが普通ですか?
年齢、卵巣予備能(AMHの値)、選んだ排卵誘発法によって大きく異なり、1個のこともあれば10個以上のこともあります。数が多ければよいというものでもなく、数が少なくても妊娠に至る方はたくさんいらっしゃいます。ご自身の卵巣の状態に合った方法で、質のよい卵子を採ることを目指します。
Q. 採卵は保険適用になりますか?
2022年4月から、体外受精・顕微授精は保険適用(3割負担)の対象です。ただし年齢と回数に条件があります。詳しくは「不妊治療の保険適用条件」をご覧ください。
まとめ
採卵は、心身ともにエネルギーを使うステップです。インターネット上の体験談を読んで、不安が膨らんでしまうこともあると思います。
ただ、体験談に書かれているのは、その方が受けた条件での体験です。採卵数も、卵巣の位置も、選んだ麻酔も違えば、感じ方は変わります。採卵前の説明のときでも、お電話でも構いません。小さなことでも、遠慮なくお尋ねください。
札幌で体外受精をお考えの方、他院で治療中で採卵について相談したいという方も、お気軽にご相談ください。
※治療の流れや麻酔の適用は、患者様の体調やクリニックの方針によって異なる場合があります。実際の治療に際しては、担当医師の指示に従ってください。
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参考情報
【当院診療案内】
監修: さっぽろARTクリニックn24 院長 藤本 尚
TEL:011-792-6691
月〜土:午前9:00〜12:00(土曜日は13:00まで)
月・水・金:午後15:00〜18:30










こんにちは。不妊治療専門クリニック「さっぽろARTクリニックn24」の院長・藤本です。
前回のコラム「2024年 日本の体外受精データ」では、保険適用以降、体外受精を受ける方の年齢層が若くなってきているというお話をしました。治療を始める時期が早まっているぶん、「これから初めて採卵を受ける」という患者様も増えています。
体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)のステップのなかで、患者様が最も緊張されるのが、この「採卵」です。
「痛みはどのくらいあるのだろう」「当日はどんな流れで進むの」「前日は何を準備すればいい」…診察室でも、採卵を目前に控えた患者様から、こうしたご質問をいただきます。初めて受ける処置に対して不安を抱くのは、当たり前です。
ただ、私の実感として、採卵の不安は「知らないこと」から来ている部分も多いようです。具体的に何をして、どのくらいで終わるのか。それが分かっているだけで、当日の緊張はずいぶん軽くなります。
今回は、採卵前の準備から当日の流れ、そして多くの方が気にされる「痛みと麻酔」について、不妊治療専門医の立場からお伝えします。