1. 体外受精における「高額療養費制度」の概要
不妊治療が保険適用されたことで、窓口での支払いは原則3割負担となりました。しかし、体外受精や顕微授精、採卵・胚凍結などを同じ月に行う場合、3割負担であっても1ヶ月の医療費が高額になることがあります。
このような場合に適用されるのが、公的医療保険の「高額療養費制度」です。
これは、暦月(1日から末日まで)の1ヶ月間に医療機関の窓口で支払った医療費が自己負担上限額を超えた場合、その超えた金額が支給(または免除)される制度です。保険証を使用していたころは 、あらかじめ「限度額適用認定証」を取得し窓口で提示することで、最初から上限額までの支払いにとどめることができました。マイナンバーによる保険証制度になった現在は、事前にマイナンバーを提示した際に高額療養費制度における上限額を読み取ることが出来るので、事前に申請等しなくても高額療養費制度を利用できるため、とても便利になりました。
そのため、体外受精を受けられる患者様の多くが、この高額療養費制度(年収区分に応じた上限額)を活用して治療を行われています。
※「不妊治療が公的保険の対象となる条件(女性の年齢制限や胚移植の回数上限など)の基本ルール」や「先進医療/不妊治療費助成」については、以下の記事で詳しく解説しています。合わせてご参照ください。
【関連記事】
▶︎【保険適用】不妊治療の費用とルール|対象年齢・回数制限と助成制度を専門医が解説
▶︎【2026年最新】札幌市「先進医療」不妊治療費助成の手引き|保険診療と上手に併用して費用を抑えるポイント
2. 【年収・所得別】高額療養費制度の上限額改定(2026年・2027年)
不妊治療を行われている方やこれからご検討される方にお知らせしたい重要事項として、公的な高額療養費制度の自己負担上限額の見直し(改定)があげられます。
2026年8月改定の目的と長期療養者へのセーフティネット
「値上げされて負担が増えるだけなのかな?」と不安に思われるかもしれません。しかし、今回の改定は「医療保険制度全体の持続可能性を確保しつつ、長期にわたり治療が必要な方のセーフティネット機能を強化すること」を主眼として実施されます。
具体的には、制度全体の維持のために月単位でのご負担の見直しをお願いする一方で、複数回高額な医療費がかかった場合の「多数回該当」の軽減措置は維持。さらに、新たに「年間上限額」が設定されるなど、長期に渡り療養される方や低所得者層への配慮がなされた見直しとなっています。
- 2026年8月〜(第1段階): 物価・賃金動向等に合わせた月額上限の見直しが実施されると同時に、長期治療を受ける方の負担を抑える「年間上限額」が新設されます。
- 2027年8月〜(第2段階): 所得区分がより細かく再編(細分化)され、年収に応じた負担額の適正化が進められます。
具体的にご自身の年収帯で月額の上限がどのように変わるのか、厚生労働省の公表資料に基づきまとめたのが以下の推移表です。

不妊治療を行われている平均的な世帯層(年収370万〜770万円)の場合、2026年8月からは1ヶ月あたりの自己負担の上限が80,100円から85,800円(+5,700円)へ変更されるなど影響が生じます。
最新の制度区分や自己負担額の詳細につきましては、ご自身が加入されている公的医療保険者(健康保険組合・協会けんぽ・国民健康保険等)の案内をご確認ください。
3. 民間生命保険の「先進医療特約」の仕組み
不妊治療では、保険診療の「基本治療」に加えて、妊娠率や胚の発育をサポートするための「先進医療」を組み合わせることができます。
ただし、先進医療にかかる費用(技術料)は高額療養費制度の対象外(全額自己負担)となります。
この先進医療の技術料に関して、ご自身が加入されている民間の生命保険や医療保険の「先進医療特約」が適用できる場合があります。
先進医療特約と不妊治療
2026年8月現在、生殖医療の分野では厚生労働省に認められた複数の先進医療(タイムラプス撮像法による胚培養、ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術、子宮内膜刺激術、子宮内膜受容能検査1など)が存在します。
ご契約の医療保険に「先進医療特約」が付帯している場合、不妊治療として実施した先進医療の技術料が給付金の対象となるケースがあります。
※給付金の支払い可否や対象となる医療技術、給付上限額などは、各保険会社の約款や契約内容によって異なります。事前にご加入の保険会社への確認が必要です。
当院での確認体制
当院(さっぽろARTクリニックn24)では、初診時の問診等において「民間の医療保険で先進医療特約にご加入されているか」をご確認させていただく場合があります。
ご自身の契約内容を事前に把握しておくことで、費用のご不安を軽減しながら、ご自身に適した先進医療(タイムラプス培養など)の選択肢を検討していただくことが可能です。
4. 受診前(治療開始前)に保険内容を確認しておくポイント
これから不妊治療のための受診を検討されている場合は、受診前の段階でご自身の民間保険の加入状況・保障内容を確認しておくことをお勧めします。

受診前の確認がお勧めされる理由
- 治療開始後の加入条件の変化: 医療機関を受診し「不妊症」の診断を受けたり治療を開始したりした後は、民間保険の新規加入や特約追加の際に、特定の部位や疾患が保障対象外となる(条件付き加入)場合や、加入手続きが制限される場合があります。
- 免責期間(待機期間)の確認: 保険商品によっては、加入から一定期間は給付金が支払われない「免責期間」が設定されていることがあります。
※なお、すでに治療を開始されている場合でも、加入済みの保険に先進医療特約が既に付帯されていれば対象となる可能性がありますので、保険証券や約款をご確認ください。
5. まとめ
体外受精をはじめとする不妊治療では、医療技術の選択とともに、利用できる公的制度や民間保障の理解が大切です。
- 高額療養費制度: 2026年8月より改定による上限額の変更があるため、ご自身の年収区分の最新情報を確認する。
- 民間保険の先進医療特約: 全額自己負担となる先進医療費の給付対象となる場合があるため、事前に契約内容を確認する。
当院では、医療技術の提供にとどまらず、患者様が安心して治療を進められるよう、費用や制度に関するご案内を行っております。
「治療にかかる費用の目安を知りたい」「自身の受ける先進医療について確認したい」など、ご不明な点がございましたら、医師やスタッフへお気軽にご相談ください。
本記事の参考・公的データソース
- 高額療養費制度の改定・上限額について
- 不妊治療の公的保険適用・先進医療について
- 民間保険の先進医療特約について
※高額療養費制度の最新の適用条件や申請手続きについては、ご自身が加入されている公的医療保険者(健康保険組合・協会けんぽ・国民健康保険等)へご確認ください。
※民間の「先進医療特約」の適用可否や給付金額については、ご契約の生命保険会社・損害保険会社へご相談ください。
監修: さっぽろARTクリニックn24 院長 藤本 尚










こんにちは。さっぽろARTクリニックn24院長の藤本です。
2022年4月から不妊治療が保険適用となり、多くの方にとって体外受精などの高度生殖医療が受けやすくなりました。一方で、実際の治療にかかる費用や公的制度の適用範囲、自己負担額について不安をお持ちの方もいらっしゃいます。
不妊治療、特に体外受精においては、保険診療であっても医療費が高額になる場合があるため「高額療養費制度」の利用が一般的です。そして、公的制度の持続可能性と適切な負担のあり方を見直す観点から、この高額療養費制度の上限額の見直し(改定)が順次実施されており、患者様の自己負担額に影響が生じています。
また、保険診療と併せて行う「先進医療(タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養や子宮内膜受容能検査1/2など)」の費用負担に関し、民間の生命保険・医療保険につける「先進医療特約」を活用されるケースも増えています。
今回は、高額療養費制度の改定内容(年収別の影響や改定の背景)と、民間保険の先進医療特約の基本的な仕組みについて、医療現場の視点から解説します。