1. 札幌市・北海道の「先進医療を受ける方に対する不妊治療費助成」とは?
まず正しく知っておいていただきたいのは、現在自治体が行っている助成金は、不妊治療全般に対して助成をするものではありません。保険診療で行った高度生殖医療(体外受精)と併用して実施した『先進医療』の費用を対象とした制度であるという点です。
保険診療と「先進医療」の仕組み
現在、基本的な体外受精や顕微授精、胚移植は健康保険(3割負担)で受けられます。 しかし、標準的な治療だけではカバーしきれない特殊な技術や検査が必要な場合、厚生労働省が認めた特定の技術を「先進医療」として保険診療と組み合わせて実施することができます。
通常、保険診療と保険外の自費診療を混ぜることは「混合診療」として禁止されており、もし混合診療を行った場合には、本来保険が利く診療も含めて、すべてが10割自己負担になってしまいます。しかし、国に認められた「先進医療」に限り、ベースの治療は3割負担のまま、先進医療のパーツだけを全額自己負担(10割)で追加することが認められています。
この、全額自己負担となる「先進医療の部分」に対し、札幌市や北海道が独自の経済的支援として上乗せしているのが、本助成金制度です。
2. 助成金を受け取るための「4つの要件」と対象者の条件
札幌市の「先進医療を受ける方に対する不妊治療費助成」を利用するには、治療を始める段階、および申請の段階で以下の要件を満たしている必要があります。
① 保険診療の生殖補助医療と併用していること
最大のポイントは、「ベースの治療(採卵や移植など)を健康保険(3割負担)で行っていること」です。年齢制限等により、ベースの体外受精自体を全額自己負担(自由診療)で行っている場合は、この助成金の対象外となります。
② 先進医療の実施機関として届出済みのクリニックで受けること
どの医療機関で受けてもよいわけではありません。厚生労働大臣へ適切に届出、または承認されている「先進医療実施医療機関」で行われた治療のみが対象です。 ※当院(さっぽろARTクリニックn24)は、各種先進医療の登録実施機関ですのでご安心ください。
③ 年齢と回数の制限(保険診療のルールに準じる)
治療期間の初日における妻の年齢が43歳未満の夫婦が対象です。また、助成が受けられる回数は、健康保険で認められている移植回数のリミットと連動しています。
- 治療開始時に40歳未満の夫婦: 1子ごとに通算6回まで
- 治療開始時に40歳以上43歳未満の夫婦: 1子ごとに通算3回まで
※出産(妊娠12週以降の流産・死産を含む)に至った場合は、それまでの回数がリセットされ、次の妊活で新たにカウントを始めることができます。
④ 住所および婚姻関係の要件
住所: 申請日において、ご夫婦のいずれか一方、または双方が札幌市内に住民登録があること(※札幌市外の北海道内にお住まいの場合は、北海道の同様の助成事業の対象となります)。
婚姻要件: 法律婚はもちろん、然るべき要件(要申立書)を満たしていれば事実婚のカップルも対象となります。
3. 具体的にいくら戻る?助成額の計算例と費用を抑えるポイント
では、実際にこの制度を利用すると、どのくらい費用を抑えることができるのでしょうか。
助成額は、自己負担分の7割(上限3万5千円)
札幌市(および北海道)の制度では、1回の治療(治療計画の作成から妊娠判定、または医師の判断による治療中止まで)につき、先進医療にかかった費用の7/10(7割)が手元に戻ってきます。ただし、1回あたりの支給上限額は35,000円です。
先進医療は、1回の治療周期の中で、時に複数個の先進医療を行う場合もありますが、助成の上限は1回あたり35,000円となります。そのため、複数の先進医療を行う場合には、1回の助成上限を超えた金額についての持ち出しが増えてしまう場合があります。以下にその例も記載します。
具体的な費用シミュレーション

- 例:タイムラプス撮像法(受精卵の培養環境をカメラで24時間観察・管理する技術)を追加した場合 仮に、先進医療の費用が 30,000円 だったとします。
- 助成対象額の計算:30,000円 × 0.7 = 21,000円
- 上限(35,000円)の範囲内であるため、21,000円が助成金として返還されます。
- 実質的な患者様の自己負担:30,000円 - 21,000円 = 9,000円
- 例:複数の先進医療を組み合わせ、総額が 60,000円 になった場合
- 助成対象額の計算:60,000円 × 0.7 = 42,000円
- 計算上は42,000円ですが、1回の上限額が35,000円であるため、35,000円が助成されます。
- 実質的な患者様の自己負担:60,000円 - 35,000円 = 25,000円
※クリニックから発行する領収書に記載される「文書料(証明書代)」などは助成の対象外となりますのでご注意ください。
高額療養費制度との関係
ベースとなる3割負担の保険診療部分については、一般的な医療費と同様に「高額療養費制度」の対象となります。窓口でマイナンバーカードを提示することで、所得に応じた一定の限度額以上の支払いを免除される仕組みです。 先進医療の助成金はこれとは完全に「別枠」で申請できるため、両方を賢く併用することが、トータルの治療費を最も抑える近道になります。。
4. さっぽろARTクリニックn24で選択できる主な先進医療
「先進医療」と一口に言っても、具体的にどのような医療技術があり、どのような方に適しているのでしょうか。当院で多く実施されている代表的な技術をご紹介します。
① タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養
従来の培養では、受精卵(胚)の成長を確認するために、定期的に培養インキュベーター(孵卵器)の扉を開けて外に取り出し、顕微鏡で観察する必要がありました。しかし、一瞬であっても外気に触れることは、受精卵にとってストレス(光や温度、湿度の変化)になります。 タイムラプス技術は、インキュベーター内に内蔵された特殊なカメラが、24時間一定の間隔で受精卵を自動撮影します。受精卵を一度も外に出すことなく、最適な環境に保ったまま詳細な成長プロセスを確認できるため、胚へのストレスを極限まで減らし、質の良い胚を育てることに貢献します。
② SEET法(子宮内膜刺激術)
体外受精において、良好な胚を戻してもなかなか着床しない(着床不全)原因の一つに、子宮と受精卵の「シグナルのすれ違い」があります。本来、自然妊娠では受精卵が卵管を通って子宮にたどり着くまでの間に、受精卵から分泌される信号が子宮内膜に届き、子宮側が「着床の準備(お布団を整える)」を始めます。 SEET法は、ご自身の受精卵を培養した際に得られた「培養液(受精卵のシグナルがたっぷり含まれた液体)」を凍結保存しておき、胚移植の数日前に子宮内へ注入することで、子宮内膜に「もうすぐ受精卵が来ますよ」とあらかじめ合図を送る技術です。これにより、子宮の着床環境をより自然に近い形に促します。
※他にも当院で行うことのできる先進医療は複数ありますが、何でもやればよいというわけではありません。クリニックHPにも先進医療のページがあるので参考にしていただければと思います。これらの医療技術をどのように組み合わせるべきかは、患者様のこれまでの治療経過や検査結果をもとに、担当する医師が、お二人の状況に本当に必要であるかを医学的エビデンスに基づいて慎重に判断します。
5. 申請の手続きと”2ヶ月以内“という注意点
札幌市の「先進医療を受ける方に対する不妊治療費助成」は、治療が終わった後に患者様ご自身で保健所(または各区の健康・子ども課)に申請を行う「事後申請」方式です。
ここで、絶対に忘れてはいけない重要なルールがあります。
申請期限は「治療終了日の翌日から2ヶ月以内」
札幌市の規約では、「1回の治療が終了した日の翌日から数えて2ヶ月以内(必着)」に書類を提出しなければならないと定められています。この期限を1日でも過ぎてしまうと、どれだけ高額な先進医療を受けていたとしても助成金を受け取ることができなくなります。
手続きのステップ
- 治療の終了: 妊娠判定(あるいは医師の判断による治療中止)をもって、その回の治療が「終了」となります。
- クリニックへの文書依頼: クリニックの窓口に、市指定の「受診等証明書」の作成を依頼してください。当院にて正確な治療内容と費用を証明する書類を作成いたします(※書類の発行には一定の日数をいただいておりますので、治療終了後、速やかにご依頼ください)。
- 必要書類の準備: 住民票(世帯全員分)や、婚姻関係を証明する戸籍謄本(事実婚や別世帯の場合)、クリニックが発行した受診等証明書、領収書の原本を用意します。
- 札幌市不妊専門相談センターへの提出: 札幌市以外の市町村の方は各自治体に提出先は確認してください。郵送または窓口への持参にて、2ヶ月の期限内に提出します。
6. 不育症の方に対する独自の助成制度について(補足)
先進医療への助成とは別に、札幌市では「不育症」にお悩みの方に対する独自の支援制度(不育症検査等助成事業)も設けています。 流産や死産を2回以上経験されている方を対象に、不育症の原因を突き止めるための検査(自費診療分)に対して、1回につき10万円を上限に助成を行うものです。
「何度も流産を繰り返して心が折れそう」「自分は不育症なのかもしれない」と不安を抱えている方は、費用面でのサポート制度があることを知っておくだけでも、少し、心のハードルが軽くなるのではないでしょうか。当院では不育症に対する専門的な検査・診療も行っておりますので、お一人で悩まずにご相談ください。
7. 先進医療助成に関するよくある質問(FAQ)
Q. 先進医療を2つ同時に受けた場合、助成金はそれぞれ3万5千円ずつ、計7万円もらえますか?
A. いいえ、戻りません。助成は「先進医療の種類ごと」ではなく、採卵から移植・判定にいたる「1回の不妊治療(一連のサイクル)」を単位として計算されます。そのため、複数の先進医療を組み合わせた場合でも、その合計額の7割(上限35,000円)がそのサイクルの上限となります。
Q. 札幌市外(江別市や北広島市など)に住んでいるのですが、申請先は札幌市になりますか?
A. いいえ、住民票がある自治体が申請窓口となります。札幌市、旭川市、函館市、小樽市以外にお住まいの方は、「北海道(各保健所)」が実施する助成事業の対象となります。基本的な助成内容(7割・上限3.5万円)はほぼ同様ですが、お住まいの市町村によっては、独自の交通費補助などが上乗せされるケース(例:江別市など)もありますので、お住まいの地域の自治体ウェブサイトをご確認ください。
Q. 医療費控除も一緒に利用できますか?
A. はい、利用できます。ただし、確定申告で医療費控除を申請する際は、支払った総医療費から「自治体から受け取った助成金の額」を差し引いて申告する必要があります。助成決定通知書や領収書のコピーは大切に保管しておいてください。
まとめ:費用と技術のバランスを、共に考え、伴走する
「先進医療」という言葉を聞くと、何か非常に高額で、自分たちには手の届かない治療のように感じてしまうかもしれません。しかし、国の認定制度と、札幌市による「自己負担7割(上限3.5万円)の助成」を上手に活用すれば、実質数千円から数万円の負担で、質の高い最先端技術を治療にプラスすることができます。
大切なのは、「費用が高いから諦める」のではなく、「自分たちのからだの状態に対して、その先進医療が本当に妊娠率を高めるために必要なのか」を医学的に正しく見極めることです。
さっぽろARTクリニックn24では、お二人の経済的な状況や、お仕事との両立、そして何より「納得して治療に臨みたい」という気持ちを大切にしています。
制度の仕組みや、自分たちの治療内容でいくら戻るのかなど、少しでも分からないことがあれば、当院の受付スタッフや不妊治療コーディネーターへいつでもお気軽にお声がけください。未来の家族を不安の中で待つのではなく、正しい知識とサポートと共に、一歩ずつ歩みを進めていきましょう。
専門的な情報・相談窓口リンク(外部サイト)
- 札幌市|令和8年度札幌市不妊治療等支援のご案内(PDF)
https://www.city.sapporo.jp/eisei/funin/documents/r8funin_annai.pdf - 札幌市|不育症治療費助成事業
https://www.city.sapporo.jp/eisei/funin/huiku.html
札幌市|不妊治療費助成(先進医療)
https://www.city.sapporo.jp/eisei/funin/josei.html - 北海道|北海道不妊治療等助成事業のご案内
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/kms/hunin_josei.html - 厚生労働省|先進医療を実施している医療機関の一覧https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan02.html
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- 当院の先進医療について:
➔ さっぽろARTクリニックn24:先進医療について - 当院の体外受精(ART)の具体的な治療方針や費用、流れについてはこちら:
➔ さっぽろARTクリニックn24:体外受精について
監修: さっぽろARTクリニックn24 院長 藤本 尚










こんにちは。さっぽろARTクリニックn24の院長・藤本です。
2022年4月から体外受精や顕微授精などの生殖補助医療が健康保険の適用となり、不妊治療はより身近な選択肢となりました。しかし、患者様ひとりひとりの状態に合わせて「より妊娠の可能性を高めるための選択肢」をプラスしようとした際、保険の枠組みから外れる「先進医療」が必要になるケースがあります。
「先進医療を取り入れると、費用はどのくらい高くなるのだろう……」 「札幌市や北海道には、先進医療の費用をサポートしてくれる制度があると聞いたけれど、自分たちは対象になる?」
このようなお金に関する不安は、治療への一歩を躊躇させる大きな原因になり得ます。
今回は、札幌市および北海道が実施している「先進医療を受ける方に対する不妊治療費助成制度」について、2026年現在の最新情報を分かりやすく解説します。