―採卵に向けた調節卵巣刺激法について―
まずは今回登場する用語や図の説明です。
受容体に結合して細胞内への情報伝達を引き起こす物質をアゴニストと言い、アゴニストの作用を阻害する物質をアンタゴニスト(アンチアゴニスト)といいます。

各誘発方法について、作用機序とスケジュールを示しながら説明していきます。
図では誘発剤の役割をそれぞれ三色で、記号は以下の通りで表しています。

※誘発開始前に看護師が自己注射の指導をするので、誘発剤投与のための来院は基本的に必要ありません。
※D1=生理1日目(来院タイミングは目安です)

アンタゴニスト製剤によってGnRH受容体の結合を阻害することで内因性のFSH/LH分泌を抑制する方法です。FSH/hMG製剤の投与によって卵が育ってきたことを確認できた(卵胞径が基準値を超えた)ところでアンタゴニスト製剤の投与により排卵を抑制します(①)。

採卵の時間に合わせたGnRHアゴニスト製剤投与によってLHサージを引き起こして卵の成熟と排卵を促します(②)。

トリガーにGnRHアゴニスト製剤が選択できるので、OHSSリスクを低くすることができます。

GnRHアゴニストはGnRH受容体に結合してFSH/LHの分泌を促しますが、持続的に投与するとGnRH受容体の数を減少させます。その作用を利用してGnRH製剤により内因性のFSH/LH分泌を抑制しながらFSH/hMG製剤の投与することで排卵を抑制しながら卵を育てる方法です(①・②)。


卵胞が育ったことが確認出来たら採卵の時間に合わせたhCG投与によってLHサージを引き起こして卵の成熟と排卵を促します(③)。

トリガーがhCGになることでOHSSのリスクが高くなるため、多くの卵胞発育が見込めない卵巣予備能が低い方が対象となります。

LHサージの抑制を黄体ホルモン製剤で行う方法です。
黄体ホルモンは本来排卵後の黄体から分泌されるホルモンであり、妊娠状態を維持するための働きの中に排卵抑制作用があります。
トリガーにGnRHアゴニスト製剤を選択できるのでOHSSリスクを低くすることができ、更に注射の使用が少ないため侵襲性も低く安価なうえで十分な卵の獲得が期待できることから、比較的新しい方法ですが近年実施頻度が増えています。
しかし黄体ホルモンの働きにより内膜が着床に適さない状態になることで新鮮胚移植ができないので、必ず胚は凍結することになります。
誘発剤を使用せずに内因性のホルモンによる刺激のみ、または低刺激な内服薬による刺激のみで卵胞を育てた後にトリガーによりLHサージを引き起こす方法です。
通院が頻回になることや、内因性のLHサージが起こることで排卵してしまうと採卵が中止になる等のデメリットがあります。
加えて当院では卵胞発育のための注射を補助的に使用したり、排卵抑制のためにアンタゴニスト製剤や黄体ホルモンを使用することもあります。
これらは生殖補助医療において基本的に確立されてきた方法ではありますが、選択する方法や使用する誘発剤によって反応性は人それぞれです。
卵胞の発育速度や採卵後の培養結果によっては次の採卵で別の方法を試してみたり、使用する誘発剤や投与量、頻度を変えてみたり患者様自身に合わせたものを模索することもあります。

いかがだったでしょうか。
採卵を目指すにあたって沢山の誘発剤が処方され、更に規則的な服用が求められるため心身の負担も大きいかと思います。
そんななか、それらが何のためにどのように働いているかを少しでも理解していただいたうえで採卵に臨めたら幸いです。
皆さんこんにちは!検査室スタッフです。
今回は当院で実際に行っている採卵のための誘発方法(調節卵巣刺激法)について説明します。
以前に排卵周期の基本と調節卵巣刺激法の基本についてお話しているので、そちらをご覧いただくとより分かりやすいと思います。