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【専門医解説】2023年日本の体外受精データ|2022年との比較と現状|さっぽろARTクリニックn24

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2022年4月から体外受精が保険適用となりました。今回保険適用後の初めての通年でのデータである2023年の体外受精のデータが出たので、2023年と2022年のデータを比較して変わったこと、変わらなかったことを分析していきたいと思います。

1. 2022年・2023年の体外受精データが意味するもの

さっぽろARTクリニックn24による、体外受精についての費用体系の推移についてグラフで明示されている。2022年4月から体外受精が自費診療から保険適用化されており、2023年は年間通して保険診療でったことそ示している。

2022年4月から体外受精(生殖補助医療:ART)の保険適用が開始されました。それにより、年齢制限や回数制限はあるものの、患者様の費用負担はそれ以前の自費診療のころに比べて大幅に軽減されました。

2022年の集計は、自費診療の時期と保険診療の時期が混在した過渡期のデータです。一方で、翌年となる2023年のデータは、基本的には通年で保険診療が行われた初めてのデータとなります。つまり、この2022年と2023年は、日本の不妊治療制度における大きな転換期とその定着を表す、非常に意味深い2年間であると言うことができます。

▶︎関連記事:2022年日本の体外受精データと年齢別の妊娠率・流産率

 

2. 2022年と2023年のARTデータ:客観的な数値比較

日本産科婦人科学会(JSOG)が公表している、2022年と2023年の日本全国におけるARTデータの原本から、主要な客観的数値をシンプルに比較します。

さっぽろARTクリニックn24による、日本における2022年と2023年のART成績の違いについて表で明示している。総治療周期数が前年比で約1.8万周期増加、総出生児数が前年比10%以上増の85,048人に増加、凍結融解胚移植(FET)による出生数が全体の95%とさらに増加、新鮮胚移植の妊娠率は横ばいの23.1%、凍結融解胚移植(FET)の妊娠率は40.5%と増加して、ついに40%第に到達した。これらのデータの出典は日本産科婦人科学会が公表するARTデータから院長:藤本尚が抽出分析してまとめたものである。 明示されている。2022年からの体外受精の保険適用以降、多胎数は増加している。多胎率の変化は少なく見えるが、出生数が大きく増えていることで、実際の多胎数は過去一番の数になっていることがうかがえる。出典は日本産科婦人科学会が公表しているARTデータを院長:藤本尚が分析再集計してグラフにしているものである。
  • 総治療周期数
    • 2022年:543,630 周期 ➔ 2023年:561,664 周期 (約1.8万周期の増加
  • 総出生児数(体外受精・顕微授精などで生まれたお子様の合計)
    • 2022年:77,206 人 ➔ 2023年:85,048 人 (約7,800人の増加・過去最多
  • うち、凍結融解胚(卵)を用いた治療での出生児数
    • 2022年:72,201 人 ➔ 2023年:80,774 人 (増加した出生児のほとんどを占める

総治療周期数が増加しているだけでなく、実際に出産(生産)に至った数や、生まれてきた赤ちゃんの数が明確に増加していることが分かります。

 

3. 2023年データで見えてきた『変わったこと』:排卵誘発法のシフト

排卵誘発法である「PPOS法」が急増

「採卵周期における周期管理方法の内訳」を比較すると、近年の不妊治療における現場レベルの重要なトレンドが数値として見て取れます。

データの中で特に注目すべきは、全胚凍結を前提とした「PPOS法」の割合が 11.9% ➔ 16.3% へと増加している点です。2022年から2023年にかけて、PPOS(プロゲスチンを用いた排卵抑制)法が 4.4% もシェアを拡大しています。

一方で、新鮮胚移植を見据えた自然周期(5.0% ➔ 4.2%) や、クロミフェン単独(9.8% ➔ 8.2%) などの低刺激管理は一様に減少傾向にあります。

PPOS法は近年急速に普及してきた新しい排卵誘発法です。従来の注射を多く用いる方法に比べて通院回数や自己注射の負担が格段に少なく、さらに体外受精の大きなリスクであるOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を安全に予防できるという、医療側・患者様側の双方にとって極めて利便性の高いメリットを持っています。

限られた保険回数の中で、最大限の効果(妊娠率)を得るための治療戦略

現在の保険適用制度には、「40歳未満は子1人につき通算6回まで(40歳以上43歳未満は通算3回まで)」という厳格な回数制限が設けられています。

このような背景のなか、自然周期やクロミッド単独による採卵が減少し、PPOS法(全胚凍結)が増加したという事実は、日本全国のクリニックが「1回の採卵で、身体へのリスクを抑えつつ確実に複数の良好胚を確保し、一度すべて凍結した上で、環境の良い子宮へと戻す(凍結融解胚移植:FET)」という、限られたチャンスの中で最も高い成果を目指す戦略へとさらにシフトしている現状を示しているものと思われます。

 

4. 2022年と2023年で『変わらなかったこと』:医学的な本質

「年齢の壁」のグラフ形状は完全に一致

日本産科婦人科学会の公表した2022年の日本における体外受精(ART)の年齢別妊娠率と流産率、流産率のグラフ画像
日本産科婦人科学会の公表した2023年の日本における体外受精(ART)の年齢別妊娠率と流産率、流産率のグラフ画像

2022年も2023年(最新データ)も、総治療周期数のピークは39歳〜42歳付近にあります。しかし、無事に出産(生産)に至るラインは35歳〜36歳を境に緩やかに右肩下がりとなり、40歳を境に流産率が妊娠率を上回るクロス現象が起きる形状は、2022年も2023年も全く変わりません(上の2つの図)。

「制度や費用負担が変わっても、卵子の生物学的な限界(年齢の壁)だけは変わらない」という事実は、厳しい数字ではありますが、早期の受診やステップアップを検討する上での不変の事実を示しています。

新鮮胚と凍結融解胚(FET)の圧倒的な実績差

新鮮胚移植の胚移植あたり妊娠率が 21.9%(2022年) ➔ 23.1%(2023年) であるのに対し、凍結融解胚移植(FET)の妊娠率は 37.8%(2022年) ➔ 40.5%(2023年) と、2023年にはついに40%の大台を突破しました。

新鮮胚移植と凍結融解胚移植のの成績差は以前よりありましたが、その成績差は年々拡大し2023年のデータでは 17.4% にまで拡大しています。これは日本の培養・凍結技術(Vitrification法)の成熟が実を結んでいる結果と言えます。

また別の視点から見ると、保険適用をきっかけにこれまでより若い年齢層で治療を開始する方が増えたことも、凍結胚・新鮮胚双方の妊娠率の底上げに寄与している可能性がうかがえます。

 

5. 2023年データで最も注視すべき変化:多胎妊娠(双胎)の増加

さっぽろARTクリニックn24による、日本における多胎率と多胎数の推移についてグラフで明示されている。2022年からの体外受精の保険適用以降、多胎数は増加している。多胎率の変化は少なく見えるが、出生数が大きく増えていることで、実際の多胎数は過去一番の数になっていることがうかがえる。出典は日本産科婦人科学会が公表しているARTデータを院長:藤本尚が分析再集計してグラフにしているものである。

データから読み解ける今後の課題として、今まで減少から横ばい傾向であった双胎妊娠(双子)の増加が挙げられます。

これは、限られた回数の中で、保険適用の残り回数が少なかった際などに、1回の移植で少しでも可能性を高めようと行われる「2個胚移植」に起因するものと考えられます。凍結胚移植における多胎妊娠の割合(胎嚢数多胎率)は 3.8% となっています 。パーセンテージで見るとわずかな増加に見えますが、分母となる総出生児数自体が大きく増えているため、実際の多胎妊娠数としては著しい増加傾向(過去最高水準)を示しています 。

多胎妊娠は母体・胎児ともにリスクが高くなる「ハイリスク妊娠」です。2008年に日本産科婦人科学会が生殖医療における多胎妊娠防止に関する見解(原則として単一胚移植とする)を出したことで、多胎による早産や障害を持って生まれる赤ちゃんは劇的に減少しました。今回のデータによる多胎数の増加は、周産期医療の現場への負担やリスクの観点から、私たち専門医としても非常に慎重に注視していくべき変化であると感じています。

 

6. まとめ:さっぽろARTクリニックn24の治療方針として

日本の総出生数が減少を続ける一方で、2023年に体外受精(ART)によって生まれたお子様の数は過去最多の8万5,048人を記録しました 。ほんの10数年前には「クラスに1人くらい(約30人に1人)」と言われていた時代から、今や「生まれた赤ちゃんの約9人に1人が体外受精で生まれた赤ちゃん」という時代を迎えています 。

不妊治療が公的な医療として社会に完全に定着した一方で、年齢や回数の制限、それに伴う多胎妊娠の増加といった新たな課題も見えてきました。

子どもを望む方々が、制限に阻まれて最適な選択肢を失うことがないよう、今後は国や厚生労働省による保険診療回数などの制度の見直しや、より柔軟な運用についての前向きな議論を期待したいところです。

当院としても、これからも公表される最新データを細かく分析し、患者様お一人おひとりにとって最も身体に負担が少なく、かつ成果につながる安全な治療方針を模索し続けてまいります。

 

参考情報

日本産科婦人科学会 2022年ARTデータブック

日本産科婦人科学会 2023年ARTデータブック

 

監修: さっぽろARTクリニックn24 院長 藤本 尚